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友人から電話を受けたその日、熱が冷めない内に私は彼女を映画に誘った

今どき異性と初めての外出に映画なんてベタな、なんて思われるかも知れないが、娯楽に溢れた2020年代のデートとは若者に取っては選択肢の宝庫であっても、間もなく30に迫る私からしてみると初めて訪れた街に沢山ある居酒屋の中から美味しいお店を探し出すくらいの労力を感じるのだ

自分で開拓していく喜びと努力と労力を出来る限り省略しながら楽しむなら、答えは2つだろう

居酒屋で言うならば美味しいお店を知っている人から口コミを貰うか、チェーン店で無難に飲むべきだし、それがデートならば相手に決めて貰うか、誰もが思い付く適当なデートにするべきだろう

そんなおじさん臭い怠惰な屁理屈を駆使して、相手の好みや趣味を考慮することもせず思考停止して映画に誘った為、

『ところで、何で映画だったんですか?映画鑑賞が趣味でしたっけ?』

こんな質問も飛んで来る訳である

『特段趣味って訳じゃあ無いんだけどね、最近はビデオ配信がいつでもスマホで見れる訳でしょ?コロナ禍で見すぎて飽きてしまってね。月額…?』

『サブスクね。私も解約しちゃいましたよ』

『そうそれ、見なくなると何となく大きい画面で鑑賞したくなるもんかなって思ってさ』

『デートの定番ですしね!』

悪戯っぽく笑いながら彼女は”デート”と言う言葉を軽やかに使うのに少しドキッとした

これが小悪魔系女子と言うやつだろうか?

彼女の場合、アルコールが入るとただの悪魔だが

『それに、初めて出掛けるのにスーパー銭湯でサウナ入ってキンキンに冷えたビールを浴びるように飲んだり、競馬場に行って一段とはしゃいでるおっさん見付けて、次のレースであの人が勝つか負けるかに1000円ずつ掛け合う遊びが趣味だなんて口が裂けても言えないからさ』

『あら、私は面白そうで好きですよ』

じゃあ次に会うときは、、、なんてさりげなく相手の出方と好みやNGを探りつつ早めに次のデートの模索を始めた

適当な映画を選んだり、軽食を取ったりして時間は過ぎていく

しかしまあ、正直何年ぶりか分からないが、映画と言うのも悪くない

子供の頃は流す意味が分からなく嫌いだった放映予定の作品紹介も、ボリュームの無いキャラメルポップコーンも、見ないであろう公開予定のチラシをあれこれ手にとって見るのもなんだかんだ全て楽しかった

歳を取ると感受性が豊かになるとはこの事だったのだろうか?

そして映画も終わり、喫煙者である私は予めリサーチしておいた喫煙可能という数少ない貴重なカフェで彼女と会話にふけっていた

『それでですね、サブスクは最高収益上げましたが、私たちみたいに解約する人が多くなるのでここからは株価が軒並み下がって行くと思うんです、私』

彼女は素面だと投資や政治、ビジネスの話題にも明るく様々な会話を率先して話しかけてくれる

彼女の知らない話題を振っても、しっかりと応答してくれるし決して興味の無い素振りを見せない

若い男の子には分からないかも知れないが、私みたいな30手前のおっさんには堪らない性格の持ち主だ

『今は円安進んでるから、国内投資の方がいいんじゃないの?』

『今年はこれからびっくりするくらい円高になりますよ!』

彼女は投資関係で働いているのかと思うくらい知的だなと思い、私は既にかなり惹かれ始めてはいたが、アルコールの悪魔が潜んでいると思うとすぐ気が滅入る

そろそろかな、と思い話を切り出した

『ところで、カンナビノイドって最近話題になって来てるけど知ってる?』

『はい、いいえ?えっと、なんか聞いた事あるんですけど、何でしたっけ?』

いきなり振られた話題に可愛く戸惑う彼女への好意が芽生えたが、出来るだけ隠して話を続ける

『よく分からないけど、若い子達の中で流行っている水タバコってやつ?チルがどうたらこうたらでって言ってるやつ』

『ああ、えっと、チルって言葉は私もあまり理解してませんけど、なんかリラックスしてる状態って聞いた事ありますね。水タバコって言うと、シーシャみたいなやつですかね?』

『あーそれそれ、やっぱり若い子の方が色々知ってるね』

『いやいや、私達そんなに歳離れて無いですからね?』

笑顔で気を遣ってくれるのはありがたいが、彼女とは4つの差ではあるが社会人歴だと高卒の私と大学卒の彼女では8個離れている

彼女にとって学生だったのはつい3.4年前だが、私にとって学生時代を過ごしたのははるか10年以上前の事だ

主観では私はただの社会に疲れた草臥れたおじさんで、彼女は社会に出て輝いている時期の真っ最中というわけだから、話をするだけでだいぶ歳の差を感じてしまう次第である

『‥‥あの?』

『ああ、ごめんごめん。一瞬、考え事してしまっていたよ』

『もう。そっちから振ってきた話題なのに』

『ごめんごめん、それで、君は色々な事を知ってるからさ、水タバコとかもやった事あるのかなって思ってさ』

『何年か前に流行ってましたからね。やってみようかなって思いましたが、残念ながら機会はありませんでしたよ』

『そっかー。僕はこの通り喫煙者でね。何かきっかけが無いと禁煙をしようと思えない性質なもんで、代替品を探しているんだよ』

『それで、水タバコを?』

『ま、何となく候補の一つにでもなるかなって思ってさ』

『うーん。でも、禁煙するなら病院に通ったりもっと効率の良い方法があると思うんですけど』

少し呆れたような言い方をされて思う所が多々あるが、論点はそこでは無いので言い返すつもりは無い

『いや、ほら。君も”若いから”お酒で少し失敗したりするけど、辞めようとは思わないでしょ?それと同じで、タバコ自体を絶対に辞めたい訳では無いんだよね。なんとなく伝わるかな‥‥?』

『‥‥まあ。そうですね』

これは失敗したか?ニコチン中毒者にタバコの害を語った所で、ストレス解消して85%が税金で出来ている草を好きで消費しているのだから個人的な事に口を挟むなとキレられるのと同じく、アルコール中毒者に失敗を伝えても気分を害するか無視されるかのどっちかだ

あえて”若いから”と一般的な言い方に聞こえるよう強調して伝えたのだが、彼女は何かを察したかもしれない

『‥ま、それで、タバコを忘れるくらい夢中になれる趣味みたいなのを見つけれられれば、その内自然とタバコ離れできるかもって思った次第です。はい』

『まあ、そうですね』

しまったな、もう少し遠回しにするべきだったかな

明らかに気分を害しているのか、彼女は笑みが薄くなってしまっていた

ここでお酒の失敗なんかを掘り出したり、相談を請け負うよなんて弱みにつけこむような自己満足満載の薄っぺらな口説き方をしよう物ならば、次のデートどころか帰った後の連絡すら取れなくなるだろう

もちろん話を逸らして流したとしても、しこりを残す事になりかねないので綺麗に話を終わらせないといけない

言葉選びは慎重に、伝え方は大胆に、だ

『それでね、僕は30歳からは遊びでは無く、色々な趣味を探して見ようと思ってるんだ。嫌じゃ無かったら僕の趣味探しに付き合ってくれないかな?』

『…趣味も遊びの一環では?』

笑顔を少し取り戻した彼女は小悪魔的な笑みを湛えながら少し目を輝かせ始めた

『そうかもね』

我ながら上手く話を持っていけたな、と安堵した私はそこから楽しくお喋りを楽しみ、その日は紳士的に夕方に別れて帰路に着いた

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